犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)について 〜症状・診断・治療〜
〜症状・診断・治療について〜
1.はじめに
今回は副腎皮質機能亢進症についてのお話です。
クッシング症候群とも呼ばれ、特に中高齢の犬にみられるホルモンの病気です。よく水を飲むようになった、おしっこが増えた。お腹がポッコリ出てきた。などの変化が見られるようになります。
進行すると全身にさまざまな影響を及ぼしますが早期に発見して適切な治療を行うことで、多くの犬が生活の質を保ちながら過ごすことができます。
この記事では、犬の副腎皮質機能亢進症の症状、診断、治療について、獣医師の立場から分かりやすく解説していきます。
2.副腎皮質機能亢進症とは?
まず、副腎とは左右の腎臓のそばにある小さな臓器で複数のホルモンを分泌しています。副腎の一部である「副腎皮質」からはコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールは代謝や免疫反応、ストレスへの適応などに関わる大切なホルモンです。このコルチゾールは脳の一部(下垂体)から分泌される副腎を刺激するACTHというホルモンにより調節されています。コルチゾールの濃度が少なくなれば脳からACTHが分泌され副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。逆にコルチゾールの濃度が高くなればACTHの分泌が少なくなりコルチゾールの分泌量が減少します。このようにしてコルチゾールの濃度は保たれています。
しかし何らかの理由からこの働きが正常に機能しなくなりコルチゾールが過剰に分泌され続ける状態を「副腎皮質機能亢進症」と呼びます。
原因は大きく2つに分けられます。
下垂体性:脳にある下垂体の腫瘍によって、ACTHが過剰に出てしまうものです。犬の約80〜85%がこちらに分類されます。
副腎性:副腎そのものに腫瘍ができ、直接コルチゾールを過剰に分泌するものです。残りの約15〜20%ほどがこちらです。
このように、病気の背景には腫瘍やホルモンの異常が関わっています。
また、医原性クッシング症候群といい、コルチゾールと似たような働きをする薬(ステロイドなど)を長期的に服用した場合にクッシング症候群と同じ症状が出ることがあります。
3.症状
副腎皮質機能亢進症の症状は多岐にわたり、飼い主さんが最初に気づくサインもさまざまです。代表的な症状は以下の通りです。
食欲や飲水量の変化:水をたくさん飲み、尿の量も増える。食欲が増加する
腹部膨満:筋肉が萎縮し脂肪が付きやすくなることから「ポッコリお腹」になる。
脱毛や皮膚の変化:毛が薄くなったり皮膚が薄くなる。皮膚トラブルが起こることもあります。
呼吸が荒くなる:横になっていてもハァハァする。
合併症として糖尿病、高血圧、膵炎、感染症、血栓などが挙げられます。
4.診断と治療
<診断>
副腎皮質機能亢進症の診断は、複数の検査を組み合わせる必要があります。
身体検査:特徴的な体型や脱毛の有無を確認します。
血液検査・尿検査:肝酵素の上昇やコレステロールの増加が見られることがあります。尿検査では尿の比重が低いことも特徴です。
レントゲン検査、エコー検査:副腎の大きさを確認したり他の疾患が隠れていないかを確認します。
ホルモン検査(ACTH刺激試験、低用量デキサメタゾン抑制試験):これらは副腎が過剰にホルモンを出しているかを確認する重要な検査です。確定診断ではありませんが症状と結果を組み合わせて治療開始の判断をします。
さらに細かい検査を行うには全身麻酔下でCT検査やMRI検査が推奨されます。
<治療>
〇内科治療
治療の目的は過剰なホルモンの分泌を抑え、症状をコントロールすることです。
最も一般的なのが トリロスタンというお薬を使った治療で基本的には生涯の投薬が必要です。副腎でのコルチゾールを含め全ての副腎ステロイドホルモンの合成を抑え、症状を和らげます。
ホルモンに作用するお薬なので効きすぎても効果がなくてもいけません。
低容量から投薬を始めたら経過観察をしつつ定期的にホルモン検査を行い、適切な量を調整する必要があります。お家では飲水量の変化、嘔吐や食欲不振などの副作用の有無をチェックしてもらいます。
〇外科治療(腫瘍摘出)・放射線治療
副腎腫瘍が原因で、かつ転移がない場合には外科手術で摘出を検討することもあります。ただし高齢犬に多い病気であること、大きな血管が近くになり手術リスクが高いことから適応は慎重に判断されます。また、下垂体腫瘍の縮小を目的とした放射線治療もあります。
5.まとめ
副腎皮質機能亢進症は、中高齢の犬に多いホルモンの病気です。多飲多尿やお腹の膨らみ、脱毛などは加齢のせいと思われやすいですが、お薬でのコントロールが必要な病気のサインかもしれません。正しく診断し、治療することで快適な生活を送ることができます。
少しでも気になる症状があれば早めに動物病院でご相談ください。
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