セキセイインコの精巣腫瘍について
1.はじめに
オスの鳥でよく見られる病気が「精巣腫瘍」です。オスの鳥のお腹の中、背中側には左右2つの精巣が存在します。精巣腫瘍は特にセキセイインコに発生率が高いといわれており、中高齢のオスで多く報告されています。
今回は、鳥の精巣腫瘍の原因・症状・診断・治療について獣医師が解説していきます。
2.精巣腫瘍とは?
精巣にある細胞が腫瘍化することを指します。鳥類の精巣はお腹の中の奥に位置しており、外からは見えません。そのため腫瘍があっても早期に発見することが難しく、症状が出て初めて気づかれることが多い病気です。
セキセイインコでは特に多く見られる腫瘍性疾患の一つです。
3.原因
明確な原因は分かっていませんが、以下の要因が関与すると考えられています。
遺伝的要因:セキセイインコは遺伝的に腫瘍の発生が多い傾向があります。
年齢:中高齢(4歳以上)での発症が多いです。
ホルモンバランスの異常:精巣腫瘍は女性ホルモン(エストロジェン)の異常分泌を伴うことがあります。
環境要因:栄養バランスの偏り、紫外線不足、飼育環境のストレスなども影響すると考えられています。
鳥類の精巣腫瘍では女性ホルモンを産生する細胞が腫瘍化してしまうことが多いです。
4.症状
腫瘍の大きさや場所により症状はさまざまですが、代表的な症状は以下の通りです。
︎〇雌性化
エストロジェン分泌性である場合、精巣腫瘍によってホルモンバランスが崩れると、オスなのに卵を産もうとするような仕草や、ろう膜(くちばしの付け根にある膨らんだ部分)の色が茶色っぽく変化することがあります。エストロジェン分泌性では無い精巣腫瘍の場合はろう膜色の変化などは認められないのでお腹が大きくなった時点で初めて発見されることもあります。
︎〇臓器圧迫
腫瘍により気嚢や肺などの呼吸器が圧迫されると呼吸が速くなったり運動時にすぐに呼吸が荒くなるなどの症状が見られます。消化管が圧迫されると嘔吐や通過障害、黒色便が見られることがあります。腎臓が圧迫されると腎機能障害、腎臓より背中側にある坐骨神経が圧迫されると足に力が入らなくなり歩行異常が見られることがあります。また、腫瘍により腹腔内が圧迫されると循環が悪くなることから腹水が溜まることがあり、それにより体重の増加がみられることがあります。
5.診断と治療
<診断>
小鳥は体が小さいため、診察も慎重に行う必要があります。
身体検査:腹部の腫れ、呼吸状態や脚の麻痺を観察します。
レントゲン検査:腹部に腫瘤があるか、臓器が押されている所見が無いかを確認します。ただし他の臓器との区別が難しいこともあります。エストロジェン産生性の場合は骨の内部にカルシウムを蓄えるため雌の発情期と同じように上腕骨や大腿骨が白く写ります。本来オスには見られない所見であり、これを多骨性過骨症と言います。
超音波検査:場合によっては腹水貯留の有無を確認します。
その他血液検査など、症状に応じて必要な検査を組み合わせて診断、治療を行います。
<治療>
根本的な治療は精巣腫瘍摘出ですが麻酔のリスクや体への負担を考慮し、多くの場合は内科的治療(支持療法)が中心となります。
ホルモン療法:腫瘍のホルモン活性を抑え、症状を緩和することがあります。
注射・内服薬:嘔吐や通過障害の症状がある場合には消化管機能調節薬、胃粘膜保護薬、吐き気止めなどを使用します。
強制給餌・点滴:食欲低下などの症状がある場合は強制給餌や点滴も行います。
鳥の精巣腫瘍は、特にセキセイインコで多い病気で、お腹が膨らんできた、ろう膜の色が変わったといった症状で気づかれることが多いです。治療も限られていますが、早めに病院で診断・治療を受けることで生活の質を維持できる可能性があります。
「ろう膜の色が変わった」「食欲がない」などの変化が見られたら、早めに動物病院に相談することをおすすめします。
当院でも鳥の診察や健康チェックを行なっています。
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